作曲にはさまざまなアプローチがありますが、もっとも一般的なのはやはりコードを使った作曲法です。
はじめて作曲をするという方には少し難しいもののように思えるかもしれませんが、ある意味一番効率的に曲を作る方法としてコードは存在するといっても過言ではありません。
完全に理解する必要はないので、なんとなくコツをつかんで曲作りに役立てましょう。
省エネ作曲法について
昔「例の方法」という大学受験の参考書がありました。
選択肢のある問題で問題文を読まずに正解を当てる、とかそんな内容だった気がします。この項は作曲版の「例の方法」みたいなものです。
ここでの目標は、4小節のコード進行を作ることです。
4小節のコードがあれば、それを音楽ソフトに入力してピアノやパッド音源で演奏させ、それを元にメロディを作ったり、ドラムを入れて曲の形に仕上げることができます。
下準備
まずはどんな音楽を作りたいのかを考えましょう。
ジャンルとBPMくらいでいいです。
あとは紙と鉛筆、あればコード表を用意します。
コード進行の作り方
最初に曲作りの基本をおさえておきましょう。
1. すべての曲には「キー」がある
2. メロディーは「スケール」と呼ばれる7つの音が中心となっている
3. スケールをもとにした「ダイアトニック・コード」を使っておけばはずれはない
つかみが大事だと思ったので断定口調で書いたのですが、実際は例外があるので、上記の文の最初に「だいたい」、最後に「ことが多い」というのを頭の中でつけておいてください(笑
まずはキーについてです。
曲にはキー(調)というものがあります。途中でキーが変わるもの(転調)もありますが、たいていは一曲通して同じキーです。
キーとはなにか。おおざっぱにいうと、明るい感じだったり悲しい感じだったりという曲全体の雰囲気のようなものです。
そんなあいまいな! と思うかもしれませんが、そこを突き詰めていくと話が進まなくなってしまうので、とりあえずあいまいに押さえておきましょう。
まずはキーを決めます。
実際にキーボードでキーの音階を弾いて気に入ったものを選ぶのもいいですし、下のキー一覧を見て適当にサイコロを振って決めてもOKです。
普通の解説サイトでは♯や♭といった調号のついていないCメジャーキーで説明することが多いのですが、このサイトではワイルドにB♭メジャーで説明していきます。キーは相対的なもので、♯や♭のつかないCメジャーキーが特別なわけではないということを言いたいがためのB♭メジャーです。
まずはノートに五線譜を引きます。
そこに選んだキーのスケール(音階)を書いていきます。スケールとは音符の並び方のことです。
この場合はB♭メジャーなのでB♭(シ♭)からはじめて、A(ラ)まで書きます(たとえばこれがCメジャーだったらC(ド)からはじめてB(シ)まで書きます)。
キーの表を見ると、B♭メジャーはE(ミ)にもフラットがあるので付けておきましょう。
これがB♭メジャーの「スケール」です。
次にその音階の2つ上の音を2つ書きます。
わかりにくい言い方ですが、図を見るとわかると思います。
B♭メジャーではシとミがフラットなので、該当する音にフラットをつけます。
コード表などを見て、それぞれのコードにコードネームを書いておきましょう。
上図を見てわかるように、重なった三音の一番下の音(根音・ルート)が、コードネームにもついています。
1番目のコードは、B♭メジャーキーならそのままB♭メジャーになります。そして2番目と3番目と6番目のコードに「m」(マイナー)が、7番目のコードには「m(♭5)」がつきます。これはどのメジャーキーを選んだときも同じです。
たとえばこれがCメジャーキーならドからはじまるので、左からC、Dm、Em、F、G、Am、Bm(♭5)になります。
コードネームの下に書かれている記号はT(トニック・コード)、D(ドミナント・コード)、SD(サブドミナント・コード)というコードの性格を示すもので、水色の3つがその中でも主要なコードになります。
トニック・コードとは主和音のことで、そのキーの中で安定感のある響きをします。またドミナント・コードは基本的にトニック・コードに進み、サブドミナント・コードはドミナント・コードに進む性格を持っています。
この辺に関しては、最初はざっくり把握しておく程度で大丈夫です。
これら7つのコードはダイアトニック・コードと呼ばれ、まあ要するに、あるひとつのキーで曲を作るとき、このコードとスケールだけを使っていればはずれはない、ということです。
えっ、ひとつの曲でこれだけしかコードを使えないの? と思うかもしれません。実際使えないことはないのですが、基本となるのはこの7つで、あとはそれぞれのコードに「テンション」と呼ばれる装飾の音符がついたり、あえてダイアトニックコード以外のものを持ってきて調性をあいまいな感じにしてみたりと、基本から派生していく感じになります。
さらにいうと、7つ目の(♭5)がついているコードはあまり使わないので実質6つみたいなものです。異論はもちろん認めます(笑
最初はこれらのコードだけを使って曲を作ってみるといいと思います。
はじめて曲作りをするときは、コードやメロディーはものすごい数の組み合わせによってできているように感じてしまいがちですが、実際はこのようにキーによってある程度組み合わせが限定されてきます。
その部分を理解すると、曲作りのハードルがぐっと下がるのではないでしょうか。
このダイアトニック・コードには、左から順番にI、IIm、IIIm、IV、V、VIm、VIIm(♭5)と数字が割り振られ、コード進行表記に使われます(この並びはメジャーキーの場合)。
よく定番のコード進行として「イチロクニーゴー(I→VIm→IIm→V)」などといったりしますが、これは上記のB♭メジャーキーでいえば「B♭→Gm→Cm→F」となります。Cメジャーキーだったら「C→Am→Dm→G」です。
実際は、ニーゴーの部分は7thが加わってIIm7→V7となることが多いです。その違いは実際に弾いてみて確かめてみてください。
このあたりの内容については「知識ゼロからはじめるデスクトップミュージック DTM for Beginners」のChapter8で詳しく述べてあります。
コード進行を使って曲を作ってみよう
曲作りに必須なダイアトニックコードの知識についてざっと仕入れたところで、そこから実際にコード進行を作っていきましょう。
上で述べたように、7つのコードの中で、水色で書かれている3つ(I、IV、V)が主要和音と呼ばれます。
ギターだと、C、F、Gの3コード(スリーコード)を覚えればとりあえず曲を弾けるなんていうふうにもいわれますが、これらはCメジャーキーでのI、IV、Vになります。
これらを使った定番のコード進行がI→IV→V→Iです。
安定した響きのトニックであるIからはじまり、ドミナントに進む性格を持つサブドミナントのIV、そして不安定で緊張感のあるVを経過して安定したIに戻る、という展開です。
キーの紹介例に使ったB♭メジャーキーだとB♭→E♭→F→B♭で、CメジャーキーだとC→F→G→Cです。やっぱり最初からCメジャーキーで説明したほうがよかったような気がしてきました(笑
B♭→E♭→F→B♭(1→4→5→1)
トニックではなくサブドミナントからはじめるバリエーションもたくさんあります。
たとえばIV→V→IIIm→VIm。
キーのベースとなるIが入っていないので、はっきりした調性を感じられないところが個人的に気に入っています。
E♭→F→Dm→Gm(4→5→3→6)
まずはあまり難しく考えず、7つのダイアトニックコードをパズルのように組み合わせて、お気に入りのコード進行を作ってみましょう。
適当に組み合わせたものでも自然な流れに聴こえるのであれば、理論は後からついてくるというか、うまいこと音楽理論の枠にはまっているはずです。
ちなみにドミナントであるVとVIIm(♭5)からはじまるコード進行はほぼないので、出だしはたった5つの中から選ぶだけでOKです。
サンプル曲
上で紹介したIV→V→IIIm→VImを例に、ピアノの和音からはじまる簡単なサンプル曲を作ってみました。
キーはB♭メジャーで、コード進行はE♭→F→Dm→Gmです。
ジャンルはハウスです。この曲は驚くほど手間がかかっていませんし、音楽理論も用いていません。
ドラムはサンプリングCDのループで、ベースはキックの裏拍にコード進行通りのミ♭→ファ→レ→ソと入れただけ。ギターのカッティングはコードを鳴らしたものにCubaseのMIDIエフェクトをかけて作り、ボーカルは同じキーのサンプルをサンプリングCDから探しただけでほとんど頭を悩ませていません。唯一凝ったのは、ボーカルサンプルが入る前のドラムの変化くらいです。
これをループさせて、そこに独自のメロディを加えたら一曲完成です。
こんなふうに、4小節のコード進行を作るだけで曲はできてしまいます。
キーについてのおさらい
上の説明じゃ結局キーがなんなのかよくわからない、という方向けの説明です。
「かえるのうた」という有名な童謡があります。ドレミファミレド、ミファソラソファミ~というやつです。
楽譜にしてみるとこんな感じです。
これを全体の音程を上げて、レからはじめてみます。するとこんな感じになります。
はじまる音が変わってもメロディーのバランスは崩れていないことがわかると思います。
そして注目すべきは、レからはじめたからといって、レミファソファミレにはならないということです。
なぜかというと鍵盤の白と黒は交互に配置されておらず、ミとファ、シとドの間には黒鍵がないからです。
なんで交互じゃないのかということに関しては、まあ歴史的にこれが一番しっくりくる並びだったということで。
キーに関していえば、ド(C)からはじまるかえるのうたのキーは白鍵だけで構成されるCメジャーで、レ(D)からはじまるものはDメジャーです。
Dメジャーはド(C)とファ(F)が♯なので、レミファ♯ソファ♯ミレになります。
このようにキーとは音の相対的な関係によって成り立っています。
メロディーにコードを付ける方法
上記の方法はコード進行から作るやり方ですが、先にメロディーができた場合も基本的には同じです。
まずはそのメロディーのキーを探します。
違和感なく聴こえているのであればいずれかのキーに当てはまっているので、使われている音から簡単に割り出せると思います。
キーがわかったらあとはそのキーのダイアトニックコードを順番に当てはめていき、自然に聴こえるコードを探します。
もちろんすべての曲がダイアトニックコードのみでできあがっているわけではないので、うまく当てはまらないところもあると思いますが、その辺は試行錯誤ということで……。
メロディーの作り方
メロディーはセンスです……と身もフタもないことをいってもあれなので、参考程度のことを書かせていただきます。
前述したB♭メジャーを例にとります。
B♭(シ♭)からオクターブ上のB♭(シ♭)まで“シ♭ドレミ♭ファソラシ♭”と連続して弾いてみます。今度は上から下、次はひとつ置きに、ランダムに、リズムを変えて、そうしているうちに気に入ったメロディーが浮かんでくると思います。
メロディーが浮かんだら、それを繰り返し繰り返し弾いてください。シーケンサーに打ち込んでループさせるのもいいかもしれません。
繰り返し聴いているうちに段々と曲全体の輪郭、構成が浮かび上がってくると思います。
メロディーを作る、というと、音程が大きく上下する長いものを想像するかもしれませんが、実際の曲はシンプルな短いフレーズを繰り返しているものが多いです。
短いフレーズを二度繰り返して三度目でメロディーの後ろの部分を少し動かす。こんなふうに作ってみると、段々コツがつかめると思います。
対位法はファミコンで
音の密度の高いゴージャスな曲が作りたい方も少ない音数で聴かせたい方も、編曲には対位法が非常に効果的です。
厳密な音楽理論における対位法の定義は置いておきまして、要は主旋律にカウンターとなるメロディーをつけるということなのですが、習うより慣れろ、ということで対位法のエッセンスが詰まったファミコンを押し入れの奥から引っ張り出しましょう。
ファミコンは扱える音の数が非常に少なく(確か同時発音数が3だった気がします)、その少ない音数でいかに厚みあるBGMを奏でるかということで対位法を存分に生かした作りになっています。
代表例は「ドラゴンクエスト」です。サウンドトラックはオーケストラアレンジが施されていましたが、元のファミコンの少ない音数のもので聴いても十分かっこいいです。
童心に返るついでにファミコンBGMを聴き込むと、対位法のコツのようなものがつかめてくるのではないかと思います。
もっと総合的に学びたい方
コードや作曲に関する本はたくさん出ていますが、「実践コード・ワーク」があればポップス系の音楽作りに関してはカバーできると思います。簡単すぎず、難しすぎず、定番の一冊です。
・追記(2014.6.1)
これ結構いい本だと思うんですが廃版みたいですね(中古で売っていますが)。初心者にもわかりやすいという本では決してないんですが、ちゃんと音楽理論を勉強しようという人にとってはリファレンスにもなりちょうどいい内容だと思います。
・追記(2020.7.21)
2020年になって実践コード・ワークがまさかの復刊。Kindleでも読めます。十数年このサイトで推してきたかいがありました(笑
ただしこの本は追記その1でも書いたように、わかりやすく噛み砕いた内容のものではありません。積極的に音楽理論を身につけたいと考えている人向きです。この記事のようなざっくりと結果だけを得る的なものではないので注意してください。
楽器を弾こう!
楽器を弾けなくてももちろん曲作りはできます。DTM人口が増えたのは、楽譜が読めなくても楽器を弾けなくても音楽ができるという部分によるところも多かったわけですし。
たとえばDJ的発想のサンプルをコラージュしたような曲には、音楽教育を受けてきた人には思いつかないような斬新さがあります。
ただもう一方で、楽器を弾くという行為は音楽のひとつの楽しみであるのも事実です。また、楽器を練習していくうちに自然と和音や和声についての知識がつき、結果として曲を作るのが楽になります。
ある程度曲は作れるけど、どれも似たような感じの曲になって悩んでいる、という方にもオススメです。