「SYNTHOGY Ivory II Grand Pianos」(シンソジー アイボリー2 グランドピアノズ)は、世界最高クラスのグランドピアノを収録したピアノ音源です。
今回は、実際に使ってみて感じたことや、使い方について紹介していきます。
3台のグランドピアノ
Ivory II Grand Pianosでは、以下の3台のグランドピアノの音が収録されています。
・Bösendorfer 290 Imperial Grand(ベーゼンドルファー)
・Steinway D 9′ Concert Grand(スタインウェイ)
・Yamaha C7 Grand(ヤマハ)
3台とも世界に名だたるメーカーの、最上位のグランドピアノです。ベーゼンドルファーとスタインウェイのものは、実際に買えばどちらも2,500万円(!)ほどします。
これらのピアノを32bit、ループなしで、贅沢に余すことなく収録したのがこのプラグインです。
Ivory IIのインストール
Ivory II Grand Pianosの合計容量は77GB。
DVDで来たらどうしよう、と思ったのですが、届いたのはUSBメモリーでした。よかった……。
さすがに今どきこの大容量でDVDはないですね。インストールは15分くらいで終わりました。ピアノの機種ごとに分けてインストールもできるようです。
今Ivory IIを購入すると、無償でIvory 2.5にアップデートできます(サイトからダウンロード&インストール)。
2.5では、ハーフペダルへの対応など新しい機能がいくつか追加されたのですが、そのほかにも、インストールに関して新たな選択肢が用意されました。
これまでIvoryのオーソライズはUSBキーを使ったiLokだったのですが、このほかにPACE Machine Authorizationというオーソライズ方式にも対応するようになりました。
要はUSBキーを使わずに、プラグインを使用するハードディスクにライセンス認証ができるようになったということです(iLokのアカウントとiLok License Managerが必要)。
USBキーを使ったiLokによるライセンスの一括管理は利便性があるものの、6,000円くらいするUSBキーをソフトとは別にユーザーが購入しなければならず、壊れたときの対処も面倒で、それしか方式がないので仕方なく使っているという人も多いです。
PACE Machine Authorizationなら、一般的なソフトと同じような感じでライセンスを認証できるので、ユーザーの負担も軽減されます。
もちろん今まで通りのUSBキーを使った認証もあるので、すでにUSBキーを持っている人はそちらでライセンスを管理することができます。
Ivory II Grand Pianosを使ってみる
Ivory II Grand Pianosは、プラグインとともにインストールされる「Ivory Standalone」というアプリでスタンドアロンでも使えますが、今回はVSTプラグインの画面で紹介していきます。
まあ、どちらも同じインターフェイス、同じ操作方法なので区別する意味もないのですが。
Ivoryを立ち上げたときの画面です。
この状態では音は鳴りません。
まずは、右上の「Program Preset」をクリックします。
収録されている3台のピアノには、それぞれにたくさんのプリセットが用意されています。
ちなみにSteinwayとYAMAHAは、「German」と「Studio 7ft」という名称になっています。商標の関係かなと思ったのですが、その割にはサイトでしっかり名前を出しているんですよね。プラグイン内にその名称を使うのは特別な許可が必要なのかもしれません。
3台のピアノのプリセットの下には「Synth」という項目があります。
Just Lush PadとSolina Padという2つのシンセパッドのプリセットがあるのですが、これがなんのために入っているのかは謎です。
Ivory IIではピアノにパッドをレイヤーすることができるのですが、パッド単体で使いたい人がはたしているのかという。
まあプリセットの話は置いておいて、実際の音について解説していきます。
3台のピアノの音比較
最もベーシックな音と思われる一番上のプリセットを調整することなくそのまま使って、3台のピアノの音色を比べてみたいと思います。
曲はドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」のサビの部分です。
・Bosendorfer 290 Grand
・German Concert D Grand
・Studio C7 Grand 16
パッと聴いただけでもそれぞれの音色の違いがわかると思います。
ベーゼンドルファーは重厚で、スタインウェイはやさしく温かみがあり、ヤマハはきらびやかな感じです。
実際に使ってみた感想としては、まずなによりも音自体にリアリティがあってすばらしいです。
また、ベロシティが最大18段階とかなり細かく収録されているので、非常になめらかな演奏にすることができます。
ベロシティの変化で急に音色が変わるというようなことがないのは、ピアノ音源において結構重要なポイントだと思います。
前述したようにこれはプリセットをそのまま使用した音なので、ここからIvory内で調整し、DAWのエフェクトやEQを使っていくことで、さらに音を磨き上げていくことができます。
ピアノの音色エディット
Ivory IIにはさまざまなパラメーターが用意されており、ピアノの音色をさらに細かくエディットしていくことができます。
エディット画面は「Session」「Program」「Effects」「Preferences」の4つに分かれていますが、このうち音色にダイレクトに関係するのが「Program」です。
以下は、調整することが一番多いであろう真ん中に並ぶパラメーターの解説です。
1. Shimmer(シマー)
Ivory 2.5からの新機能。ディケイとサステインをコントロールする。
値を大きくすると、音が鳴っている間、共鳴するように響き、値を小さくすると、デッドな感じになる。
2. Release(リリース)
鍵盤を離したときの余韻の調整。
3. Key Noise(キーノイズ)
鍵盤を押したときのハンマーノイズを調整。
4. Timbre(ティンバー)
音の明るさの調整。この値を下げると音が暗くこもっていく。
5. Dynamic Range(ダイナミックレンジ)
ダイナミックレンジの調整。この値を大きくすると、鍵盤を叩く強さ(ベロシティ)によって、音の強弱差が大きく表れる。
クラシックピアノを弾くときは、大きめに設定すると抑揚を表現しやすくなる。
6. Trim(トリム)
音の大きさ。ゲイン。
7. Stereo Width(ステレオウィドス)
音のステレオ幅の調整。
8. Lid Position(リッドポジション)
グランドピアノの屋根のポジションの調整。
大きく開けばよく響き、閉じると音がこもる。
9. Timbre Shift(ティンバーシフト)
この値を変化させると、音の高さはそのままで、音色のみをシフトすることができる。
Timbreに近い機能だが、Timbreよりも大きな変化を得られる。
10. Stereo Perspective(ステレオパースペクティブ)
「Performer」は演奏者視点でのステレオイメージで、低音に行くほど音は左側から鳴り、高音に行くほど右側から鳴る。「Audience」ではその逆のステレオイメージになる。
以上が中央のパラメーターの解説になります。
左側に並ぶ設定は、弦の共鳴と、ペダルを踏んだときの音の変化を調整するものです。
Pedal Noise(ペダルノイズ)を上げると、ペダルを踏んだときや離したときのガコッという音が付加されます。しかもこのノイズは、3台とも別の音です。芸が細かい!
右側の設定はシンセレイヤーに関するものです。
オンにすると、シンセパッドがピアノと重なって発音されます。
ところでStereo Perspectiveで「Audience」にすると右から低音、左から高音が鳴るわけですが、ステージ上のピアノは横向きで客席に正対していないですよね。
というかそもそも本物のピアノを聴くときに、音の高低と、それらの音が左右のどこから聴こえてくるかは、リスナーの耳に結びつけられていないような気がするのですがどうなんでしょう。
まあそれを言ったらドラムの定位もどうなんだという話になってきますし、音源制作時のお約束みたいなものなんですかね。
Ivory II Grand Pianosをリアルタイムで演奏する
この音源を打ち込みではなく、演奏のために導入する人もいるかと思います。
そのために必要なのは十分なパソコンのスペックです。
Ivory 2.5の動作環境
Windows
OS | Windows 7 SP1以降 |
CPU | 2.4GHz Quad Core以上 |
メモリ | 2GB以上の空きメモリ |
ストレージ | 7200回転以上のHDまたはSSD |
プラグイン | AAX、VST2.4 |
Mac
OS | Mac OS X 10.8以降 |
CPU | 2GHz Quad Core以上のCPU |
メモリ | 1.5GB以上の空きメモリ |
ストレージ | 7200回転以上のHDまたはSSD |
プラグイン | AU、AAX。VST2.4 |
メモリはそんなに必要ないみたいですが、CPUがクアッドコア以上と結構シビアですね。
参考までに、現在の私の環境は以下のようなものですが、リアルタイムでの演奏をストレスなくできています。
VSTでの使用もそんなにもたつく感じはしませんし、そこまで重いソフトではないと思います。
パソコン:Apple Mac mini
OS:Mojave(10.14.6)
CPU:Intel Core i5 3GHz(6コア)
メモリ:16GB
ストレージ:SSD
DAW:STEINBERG Cubase Pro 8.5
オーディオインターフェイス:STEINBERG UR22
音が途切れたり、発音のタイミングのズレが気になるという人は、以下のことを試してみるといいと思います。
・「Session」画面の「Memory Use」を変更する(メモリに余裕がある場合はLarge、ない場合はSmallにする)
・「Session」画面の「Voices」(最大同時発音数)を少なくする
・「Program」画面左側の「Sustain Resonance」「Sympathetic Resonance」など、CPUパワーを少しでも使いそうなところをオフにする
・オーディオインターフェイスのバッファサイズを変えてみる
・Ivoryを入れるストレージをSSDにする
まとめ
以上「Ivory II Grand Pianos 最強のピアノ音源を買ってみた」でした。
記事のタイトルには「最強の」という言葉をつけたのですが、これ以外のピアノ音源はGrand Pianosより下なのかといえばそんなことはなく、最強であるかどうかは用途によって変わってきます。
たとえば、電子的な音色もあるポップスや、少人数でタイトな演奏をするロックの中にピアノサウンドを取り入れたいときなどは、Grand Pianosの荘厳な音色よりも、Upright Pianos(アップライトピアノズ)のほうがマッチするかもしれません。
グランドピアノがつねに最上であるとは限らないわけです。
しかしピアノがメインのバラードや、クラシックの要素もあるプログレッシブロックの雰囲気を出したいときなどには、Grand Pianosはその力を発揮するはずです。
そしてもちろんクラシックにおいても!
まあ音源というのは適材適所という当たり前の話なわけですが、それでもやっぱりソロで聴いたときのIvory II Grand Pianosの音色はすごくいいんですよね。
自分の拙いピアノ曲でも、これで再生すれば名曲に聴こえます(笑
ピアノを使った曲をよく作るという方にオススメできるソフトです。