トゥルーピークの目安|0dBを超えても気にしないことにしたワケ【マスタリング】

True Peakを気にするのをやめたワケ
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近年、多くのDTMerを悩ませるトゥルーピーク(True Peak)問題。
こんなことならその存在を知らなければよかったと思う人もいるとかいないとか(いない)。

作り手にとってこれが問題になるのはマスタリングのときです。
リミッターのCeiling(シーリング)を何dBに設定すべきか、トゥルーピークリミッターを使うべきかどうか、LUFSとの関係性はどうすべきか等々、考えることが山積みです。

今回は、そんなトゥルーピーク問題に対する自分なりの考えを書いていきます。

先に言ってしまうと、気にするのをやめました(結論早し!
ただし、完全に気にしないわけでもありません。その辺の事情については後述します。

トゥルーピークを気にしないということに関しては、LUFS以上に賛否がありそうですが、一意見として捉えていただければ。一応言っておくと、今後の流れによっては変わる可能性もあります。

ちなみに前回、曲の音の大きさの目安になるLUFSについて書いたのですが、今回のトゥルーピーク問題と関連があるので、先にそちらの記事を読んでいただけると、よりわかりやすいかと思います。

要約すると、Spotifyが推奨する-14LUFSというのをプロは気にしていないようだから、自分もこれまで通り音圧を上げることにした、ということをまわりくどく書いております(笑

トゥルーピークとはなにか

雲上の山の頂上

そもそもトゥルーピークとはなんなのか。

DAWには瞬間的な音の大きさに合わせて上下にちょこまかと動く、ピークメーターと呼ばれるものが付いています。各トラックに付いている一般的なボリュームメーターのことです。

そこで使われる単位はdBFS(デシベルフルスケール)で、頂点(サンプルピーク)が0dBを超えてしまうと曲を書き出したときにクリップノイズが発生してしまうため、リミッターをマスタートラックに挿し込み、Ceiling(音の天井)を0dB以下に設定してクリップさせないようにする必要があります。これは曲作りをする人が誰しもやっていることだと思います。

ところがリミッターでサンプルピークを0dBFS以下に抑えた音源でも、実際にスピーカーやヘッドホンから音を出したときに、0dBを超えてしまう現象が起こります。
サンプリングされたデジタル信号をアナログ信号に変換する際に生じるこのピークのことを、トゥルーピークと呼びます。ちなみにインターサンプルピーク(サンプル間ピーク/ISP)と呼ばれることもあります。

トゥルーピークが取り上げられるようになったのは比較的最近なので(2000年以降)、これまで世に出た市販曲には、トゥルーピークが0dB以上のものがたくさんあります。というか昔はトゥルーピークリミッターもなかったので、トゥルーピークが0以下になっているもののほうがまれなような気もします。

Spotifyが-1dBTPを推奨する理由

-1dBTP/-14LUFS

音楽ストリーミングサイト大手のSpotifyでは、トゥルーピークを-1dBTP以下(TP=True Peak)にするように推奨しています(-14LUFSの場合)。
思うにこのガイドラインがすべての悩みの原因のような気が……。ルールではなくあくまで“マスタリングのヒント”であり、しかも多くの曲がそれを守っていないんですよね。

私は曲作りの際にこの数値を参考にしていないのですが、Spotifyが推奨する理由と、もしこれを参照するならばどうすべきか、ということについて解説します。

マスタリングのラウドネスレベルを-14dB Integrated LUFSに設定し、トゥルーピークは最大でも-1dBになるようにする。これはロッシー形式 (Ogg/VorbisとAAC) に最適で、トランスコーディングプロセスによって余分な歪みが生じないようにすることができます。

引用元:Spotify for Artists

トゥルーピークを-1dB以下にするということは、トゥルーピークを抑えきれない通常のリミッターを使う場合は、-1dBよりもさらに下げた設定にしなければなりません。そうすると、実際に出力される音はかなり小さくなってしまいます。

それを防ぐには、トゥルーピークリミッターが必要です。トゥルーピークリミッターは、サンプル間ピークを推定し、トゥルーピークを設定値以下に抑えてくれます。要はこれの値を-1dBに設定すれば、トゥルーピークが-1dBを超えなくなるというわけです。最近のリミッターには、たいていこのオプションが付いていると思います。

トゥルーピークリミッターがトゥルーピークを設定値以下に抑えてくれるなら、0dBに設定して書き出せばその曲のトゥルーピークは0dBを超えないので、わざわざ-1dBTPにしなくてもいいのではないか、と思うかもしれません。しかしここで問題になるのは、その曲をエンコード(圧縮変換)したときに生じるトゥルーピークです。たとえマスター音源のトゥルーピークを0dBに設定しても、MP3などの圧縮音源に変換すると元の音源とは別物になってしまうため、新たなトゥルーピークが発生することがあるのです。(※)

ストリーミングサイトでは曲をエンコードして配信するので、ヘッドルームにマージンをとり、マスター音源をエンコードしてもトゥルーピークが0dBを超えない(あるいは超える量が減る)ように、-1dBTPを推奨しているのだと思います。

圧縮変換によるトゥルーピークの増大は、必ず起こるわけではありません。ただしMP3の128kbpsなど、低めのビットレートに変換すると、トゥルーピークは基本的には増大します。

-14LUFS以上をターゲットにする場合のTP

-1dBTP以下というのは-14LUFSをターゲットにした曲の場合で、それ以上のLUFSの曲では-2dBTP以下が推奨されています。
トゥルーピークの量は、音圧が高くなるとその分増大する傾向があるので、音の天井をより下げる必要があるというわけです。

-14dB Integrated LUFS以上でマスタリングする場合は、余分な歪みを回避するため、トゥルーピークが-2dB以下になるようにする。音圧が高いトラックほどトランスコーディングプロセスの際に余分な歪みが生じやすくなるからです。

引用元:Spotify for Artists

ただし、これには注意が必要です。
もし曲を-8LUFS/0dBFSという音圧をしっかり上げた設定にしていたとして、それに対してLUFSを変えずに-2dBTPを適用しようとすると、ものすごく圧縮感のある音質になってしまいます。天井を2dB分下げるわけですから当然といえば当然なのですが。
Spotifyが推奨するトゥルーピーク値を参照するならば、LUFSをその分下げて、-10LUFS/-2dBTPにしたほうがいいでしょう。

市販曲のトゥルーピークはどうなっているのか

CDショップ

Spotifyでは-1dBTPを推奨していると書きましたが、実際にプロの曲はどれくらいのトゥルーピークになっているのか解析してみました。

これまで世に出た市販曲には、トゥルーピークが0dB以上のものがたくさんある、と前述しましたが、今現在流通している曲でも、トゥルーピークが0dBを超える曲はたくさんあります。

比較的最近リリースされた曲の、サンプルピークとトゥルーピークを以下に掲載しています。ダウンロード音源やストリーミング音源だと圧縮されてトゥルーピークが変動しているので、非圧縮のCD音源を用いています。
ここに掲載しているのはアルバム収録曲ですが、シングルのものはもしかしたら多少数値が変わるかもしれません。

なぜストリーミングサイトの話をしてきたのに、ストリーミングサイトの音源を参照しないかというと、プロの曲ではCD音源とストリーミングサイト用音源を分けていないと見られるからです。SpotifyやAmazon Musicで、アプリではなくブラウザを使うと、ラウドネスノーマライゼーションがかかっていない状態の曲を聴くことができます。そこではCD音源と同じくしっかり音圧を上げたものが配信されています。

マスター音源がひとつならば、圧縮の影響を受けていないCD音源を参照するのがベストかと。圧縮後のトゥルーピーク値を見ても、プロが元々の曲をどう処理したかはわからないですしね。

なぜ音源を分けないのかについては、以下の記事で考察しています。

・テイラー・スウィフト – Anti-Hero(2022年10月)

サンプルピーク:0.0dB
トゥルーピーク:+1.2dB
LUFS(Integrated):-8.6

・カルヴィン・ハリス – Stay With Me(2022年8月)

サンプルピーク:0.0dB
トゥルーピーク:+0.9dB
LUFS(Integrated):-10.0

・リゾ – About Damn Time(2022年7月)

サンプルピーク:0.0dB
トゥルーピーク:+0.9dB
LUFS(Integrated):-9.1

・デュア・リパ – Don’t Start Now(2019年11月)

サンプルピーク:-0.1dB
トゥルーピーク:+0.3dB
LUFS(Integrated):-7.9

・ビリー・アイリッシュ – bad guy(2019年3月)

サンプルピーク:-0.3dB
トゥルーピーク:-0.2dB
LUFS(Integrated):-7.8

・ドレイク – Rich Baby Daddy(2023年10月)※配信のみのリリース(AACファイル)

サンプルピーク:0.0dB
トゥルーピーク:+1.6dB
LUFS(Integrated):-7.2

「bad guy」以外は、すべてトゥルーピークが0dBを超えています。これはCD音源なので、圧縮音源に変換すればトゥルーピークは変動して、ここからさらに増大する可能性もあります。
どの曲もSpotify推奨の-14LUFSをターゲットにしていないし、トゥルーピークが軒並み0dBを超えているのはどういうことなんだい、と言いたいところですが、現実的にはこうなっています。

曲のサンプルとしては少ないのですが、これらの数値を見ると、例外はあるものの、たいていの曲ではトゥルーピークを必ずしも0dB以下に抑えようとはしておらず、ピークの設定も-1dBTPではなく0dBFS近辺にしていることがうかがえます。

ドレイクの「Rich Baby Daddy」は配信のみのリリース(AACファイル)で、iTunes Storeで購入したのですが、こちらには「Apple Digital Masters」という技術が使われています。Mastersという名称ですが、これはマスタリングというよりはエンコードに関する技術で、16bit/44.1kHzのCD音源に書き出す前の高音質マスターから直接、ダウンロード/ストリーミング用のAAC256kbpsにエンコードできるようです。
高音質を売りにするApple Digital Mastersでも、トゥルーピークに手を加えていないことがわかります。

ちなみに私はリファレンスに海外のメジャー曲を使うことが多く、上であげたのもまさしくそういったものなのですが、邦楽がどうなっているのかも確認すべく、日本のトップアーティストの最新曲をチェックしてみました。

・宇多田ヒカル – Goodbye Happiness (2024 Mix)(2024年4月)

サンプルピーク:-0.01dB
トゥルーピーク:+0.5dB
LUFS(Integrated):-9.3

やはりトゥルーピークは0dBを超えています。ほかの曲でもほとんどのものが0dBを超えていましたが、ほんのわずかしか(+0.1dB)超えていないものもあれば、結構がっつり(+1.2dB)超えているものもあるなど、設定は統一されていないようです。

なぜトゥルーピークリミッターを使わないのか

トゥルーピークリミッターを使えば、少なくともマスター音源についてはトゥルーピークを簡単に0dB以下に抑えることができるのに、なぜ多くの曲で使われていないのか。これに関しては推測ですが、おそらくは音質の低下を招く可能性があるからではないかと。

個人的にトゥルーピークリミッターを使って書き出したときに、あれ? と思った経験があるんですよね。なんというか音の解像度が下がって、なおかつ飽和した感じになるというか。もちろん使うリミッターによって変わってくるとは思いますが。

トゥルーピークリミッターの音質についてはなかなか判断が難しいところではありますが、少なくとも通常のリミッターに比べると、トゥルーピークを抑えるために、曲のピークに対してより多くのプロセスが関与することは間違いありません。そしてそれが音質の低下につながるというのも十分考えられることだと思います。

-1dBTPで仕上げているプロの曲

上で取り上げたプロの曲はいずれもサンプルピークが0.0dB〜-0.3dBで、トゥルーピークは「bad guy」以外は0dBを超えています。
プロは-1dBTPにはしないのか、と思っていたのですが、発見しました

・ケンドリック・ラマー – N95(2022年5月)

サンプルピーク:-1.1dB
トゥルーピーク:-1.0dB
LUFS(Integrated):-9.7

Kendrick Lamar – N95
波形のピークが-1.1dB分下がっています

この曲は、アルバム「Mr. Morale & The Big Steppers」に収録されたものです。トゥルーピークがぴったり-1dBなので、トゥルーピークリミッターを使っていると思われます。ただし、LUFSは-14ではなく-9.7と、それなりに高くなっています。

不思議なことに、18曲中、-1dBTPなのはこの曲と「Worldwide Steppers」だけで、ほかの曲はサンプルピークが0.0dBでトゥルーピークが0dB以上になっていました。アルバムなのにピークの統一がされていないというのは謎です。マスタリングエンジニアにどんな意図があったのか。あるいはそうせざるを得なかったのか。
いずれにせよ、これは例外パターンと考えてよさそうです。

ここであげた曲のラウドネスの数値は、iZotope RXで測定したものです。
単体で使えるRX Audio Editor(Standard・Advanced版のみ付属)に音楽ファイルをドラッグ&ドロップするだけで、すぐに結果を表示してくれるので便利です。

トゥルーピークが0dBを超えたらアウトなのか

ヘッドホンで音楽を聴く男性

トゥルーピークが0dBを超えるプロの曲は、昔も今もたくさんあるわけですが、それが原因でなにか大きな問題が起こったという話は聞きません。

音圧戦争(ラウドネスウォー)時代に、音圧を上げすぎた音源が批判されたことはありましたが、そのときもトゥルーピークの弊害は指摘されなかったと思います。もしかするとMP3変換後のクリップノイズが発生した曲があったかもしれませんが……。

なぜこれまで大きな問題にならなかったのかというと、実際に音を発するオーディオ機器のD/Aコンバータ(デジタル/アナログ変換器。DAC)には、少なくとも3dB〜12dB程度のヘッドルームがあるといわれているからです。

Almost all quality-made digital-to-analog converters have at least 3 dB headroom to allow for these peaks; many have at least 12dB headroom.
ほとんどすべてのD/Aコンバータには、これらのピーク(←トゥルーピークのことです)を許容できる少なくとも3dBのヘッドルームがあります。多くの製品には少なくとも12dBのヘッドルームがあります。

引用元:WAVES L1 Ultramaximizerユーザーガイド

つまり、デジタルからアナログに変換されるときにピークが0dBを超えたとしても、許容できる範囲内に収まっていれば、それが耳で聴こえるノイズとして現れることはないということです。

と、ここまで書いて、本当にそうなのかちょっと不安になってきました(笑 12dBもヘッドルームがあるのかと。すべてのオーディオ機器に許容範囲が書いてあるわけではないですしね。

とはいえトゥルーピークが0dBを超えた瞬間をヘッドホンで注意深く聞いてみても、クリップノイズが聞こえるようなことはないので、ある程度のヘッドルームがあるのは間違いなさそうです。というか市販曲でノイズだったり歪みが出たとしたら、それは売り物としてどうなんだという話ですが。

Check! – 放送業界におけるトゥルーピーク

放送・映像分野では、トゥルーピークの管理がしっかり行われています。
民放連では音声レベル運用規準(民放連技術規準T032)として、-1dBTP(もしくは-3dBFS)、-24LKFSという規定を設けています。

トゥルーピークの許容範囲

実際に曲を作るときに、トゥルーピークはどれくらいまで許容できるか。これについての基準はありません。0dBを超えないに越したことはないわけですから。

上であげたL1のユーザーガイドによれば、D/Aコンバータには少なくとも3dBのヘッドルームはあるようなので、そこが基準といえなくもないですが、最近のプロの曲のトゥルーピークを見るに、+1.5dBくらいを上限にするのがいいのかなと。

それらのプロの曲の数値を見て思ったのが、トゥルーピークがそれほど大きくはみ出してはいない、ということです。2010年前後の曲だと、トゥルーピークが2dBを超えるようなものがざらにあるんですよね。
2010年発売のエリック・べネイの「Never Want To Live Without You」を測ってみたら、トゥルーピークが+3.2dBもありました(サンプルピークは-0.15dB)。音圧を売りにしているわけでもないR&Bにもかかわらずです。

もしかすると今のエンジニアは、トゥルーピークが0dBを超えることは気にしなくても、超えすぎないように注意を払っているのではないかと。

トゥルーピークのジレンマ

ジレンマ

話を戻してトゥルーピークの基準についてですが、リスニングに影響する可能性が完全にゼロではないなら、トゥルーピークを0dB以下に抑えるべき、という意見があるのもわかります。個人的にも、0を超えるdBにしてしまうことにはためらいがありますし。

ただ、実際にはノイズとして耳に入る可能性が限りなく低いトゥルーピークのために、音の天井を下げダイナミックレンジを制限し、さらには音質を損なう可能性のあるトゥルーピークリミッターを使用する意味があるのかという意見にもそれなりの理があるように思います。両方にメリット・デメリットが存在するというわけです。

折衷案として、トゥルーピークリミッターを使わずにサンプルピークを-2dBにして、その上で曲のLUFSも2下げるという方法があります。
たとえば0dBFS/-8LUFSという曲があるとしたら、それを-2dBFS/-10LUFSにするということです。
そうすれば、トゥルーピークをかなりの割合で防げるし、音圧も-14LUFSよりかは稼げます。

しかしここでひとつの懸念が出てきます。それは、現代のポピュラーミュージックにおいて、サンプルピークを-2dBに設定している曲なんて存在しないということです(あったらすみません……)。

結局のところ、トゥルーピークのためにサンプルピークを大きく下げるというのはあまり現実的ではなく、トゥルーピークをしっかり抑えたいならばトゥルーピークリミッターを使うしかないといえます。
しかしトゥルーピークリミッターを使うと、音質に影響するというデメリットが出てきます。

総合的に考えてどちらを選ぶかというのはその人の価値観次第ではありますが、個人的には今現在のプロが採用している設定のほうがベターかなと感じています。

とはいえ-14LUFS/-1dBTPをターゲットにするのがよくないのかといえばそんなことは決してなく、現在最も多く聴かれているストリーミングサイトの仕様に最適化し、十分なヘッドルームのある歪みのないサウンドを提供するというのは、曲作りのスタンスとして間違っていないと思います。-14LUFSまで音圧を下げてしまえば、トゥルーピークリミッターの影響も限定的でしょうし。

追記:とあるプラグイン開発者の見解

オールインワンのマスタリングプラグイン「MASTER PLAN」(メーカー:Musik Hack)の開発者、Sam Fischmann氏のインタビューが、SONICWIREに掲載されていました。
トゥルーピーク処理を自動で行うTrue Peakボタンについて聞かれたときに、彼はこう答えています。

クライアントから技術的な要件を提示されない限りは(ストリーミング・サービスのガイドラインは除く)、このボタンが必要になることは無いでしょう。マスタリングをする人の意見や好みの問題とも言えますね!
必要だと言う人がいることも理解していますが、実際のところハイレベルなマスタリング・エンジニアの大半は、トゥルーピーク・レベルを気にしていません。

引用:https://sonicwire.com/news/blog/2024/07/musik-hack-interview

“必要だと言う人がいることも理解していますが”というところからも、海外でもこの問題が論議を呼んでいることがわかりますが、プラグイン開発者であるFischmann氏の意見としては、トゥルーピークは気にする必要はないとのことです。

私が採用することにしたピーク設定

これまでの情報を元に、私が採用することにしたピーク設定は以下になります。ちなみにLUFSは-8.5くらいを目安にしています(前回記事参照)。

・サンプルピークは-0.1dBFS(通常のリミッターのCeilingを-0.1に設定)

・トゥルーピークリミッターは使わない

・トゥルーピークは高くても+1.5dB程度までにする

・WAVに書き出したあとMP3(128kbps)とAAC(128kbps)に変換し、歪みが出ていないか確認する

基本的にはプロの曲を参考にした設定になっていますが、0dBFSだとさすがに予期せぬクリップが恐いので、-0.1dBFSにしています。トゥルーピークが高めの曲は、-0.2dBFSにすることもあります(追記:最初にこの記事を書いたときは-0.2dBFSを採用していたのですが、-0.1dBFSに変更しました)。

トゥルーピークが思うように下げられない場合、トゥルーピークリミッターをかけてみて、これくらいの音質変化なら許容範囲だなと感じられるなら、-0.1dBTPにするのもありかなと思います。
まあでもその前に、試しに少し音圧を下げてみるのもいいかもしれません。ただ音圧を下げたらその分トゥルーピークも下がるかといったらそんなこともないわけで、難しいところではあります。

トゥルーピークの数値に関しては、高くても+1.5dB程度までと書いてはいますが、+1.0dB以下を目指したいところです。
この記事の最初に書いた、トゥルーピークを完全に気にしないわけでもない、というのはこの部分のことです。0dBを超えたとしても、できるだけ抑える方向には持っていきたいなと。

WAVに書き出したあとで圧縮変換するというのは、ストリーミングサイトを念頭に置いた最終チェックです。
MP3やAACに書き出すとトゥルーピークが思いのほか跳ね上がることがあるのですが、その場合、個人的にはもう諦めてトゥルーピークリミッターをかけて跳ね上がる量を少しでも抑えるという方法をとります。

あとがき

LUFSに続き、プロに倣って自分もトゥルーピークが0dBを超えるのを気にしない、という主体性のない話でした(笑
いくら考えても完全にクリアな正解というのは見えてこないので、ひとまずは現在の音楽業界で活躍するプロの曲を目安にするのがベターかなと。

正直なところ、トゥルーピークやLUFSの設定については、これからの状況次第で変わってくる可能性も十分にあります。たとえばストリーミングサービスが、-14LUFS/-1dBTP以下にしないと納品を受け付けない、となったら否が応でもそれに合わせないといけないですし。

私はリファレンスをアメリカのチャートに載るようなプロの曲にしているので、そこが変わるまでは今回紹介した設定でいくと思いますが、この先-14LUFS/-1dBTPが主流になっていき、先んじてこの設定を適用していた人が正解だった、となるかもしれません。
まあでもそうなったらそうなったで、そのときに変えていけばいい話かなとも思います。

結局のところ、作り手側としては出音に満足できているかどうか、そしてリスナーに対してストレスなく心地よい音を聴かせられているか、これが一番大事なことだと思うので、迷ったらそこに立ち戻るのがいいのではないでしょうか。